統計情報2022

はじめに

振り返り

昨年度のレポートを執筆していた頃には、既に新型コロナウイルス感染症が全国的に蔓延していたのですが、この一年間の方がスタッフに陽性者や濃厚接触者が続発したこともあり、より影響が甚大で厳しいものでした。
我々がどういう状況にあっても通院困難である患者様にとって、我々が最後のライフラインであることに変わりはありません。外来通院されておられる患者様であるならば、少し足を伸ばしていただき、別のクリニックへ通院を誘導できた筈です。しかし、訪問診療を行う医療機関は少なく、あったとしても、他院の患者様を診る余力などありません。その様な中で、何とか患者様の医療的安全を最低限確保するためにスタッフ一同、事業所や職種を越えて一丸となって協力し合いました。例えば、福岡院で人員が不足した際に鳥栖院からの応援で補ったり、在宅ワークや遠隔診療を組み込んだり、医師・看護師・ドライバーの3人1組を完全にチームとして固定し他の組と接触しない様にスタッフ間での時間的ないしは空間的なゾーニングを工夫したり、独自の厳格な濃厚接触の定義(※)を規定するなど行い、この難局を乗り越えてきました。
とは言っても、感染リスクを100%防ぐ完璧な方法などなく、常にスタッフが危険に晒されていたのは事実です。その様な厳しい状況下においても、スタッフ一人一人がプロとしての誇りと地域医療に対する大義を貫き通してくれました。まだ、ウイルスの収束の見通しが立たない中ではありますが、この一年間の苦い経験が、これから先のどの様な困難も乗り越えることができる自信へと繋がりました。レジリエンスこそが我々の強みであると実感しました。
冒頭にスタッフ一人一人への感謝の意を述べさせて頂き、以下診療データを元にこれまで1年の振り返りとこれから1年の目標について触れたいと思います。

※当法人は行政の定める一般的な濃厚接触者認定の定義よりもさらに厳格化した独自の取り決めを定めております(例:換気された車内にマスクなどの予防策を講じていたとしても濃厚接触者であると認定)。

職員・人事情報

総スタッフ数
121

前年比

医師
42

【常 勤】8名

【非常勤】34名

看護師
31

【常 勤】28名

【非常勤】3名

ソーシャルワーカー
6
臨床検査技師
2
言語聴覚士
1
ケアマネージャー
6
放射線技師
4
【非常勤】
管理栄養士
1
【非常勤】
理学療法士
3

【常 勤】2名

【常勤時短】1名

事務
18

【常 勤】14名

【非常勤】3名

【常勤(在宅)】1名

ドライバー
2
院内SE
1
法人本部
4

振り返り

クリニックを3箇所新規開設したこと、リハビリ部門や法人本部を創設したことにより、昨年と比較しスタッフ総数は17%増えました。
現場である診療部門に配置する人数を増員させるだけでなく、運営推進本部と名付けた部署に本部機能を持たせ、体制を強化してきました。まだまだ産声をあげたばかりのセクションではあり、それぞれの役割をそれぞれのスタッフに落とし込む作業に追われるばかりでしたが、徐々に成果は表れてきている実感があります。
事務長が運営推進本部を統括し、渉外部が対外的な広報活動やご利用者様のサービス全般についてのご意見ご要望に対処し、人事採用部門が臨床現場への人的リソースの後方支援を行い、システム部門が日常業務作業の負担をICT技術の観点から極限まで減じるといった役目を意識しながらそれぞれが業務にあたることができるようになりました。現場と法人本部の橋渡しの役割を担うマネジャーも活躍し、将来の法人運営の中心を担うスタッフも現れてきました。
全ては「現場のために」。各スタッフが縦串と横串様々な役割を担い、強固で風通しの良い組織体系を磨き続けています。まだまだ課題は山積していますが、良い成果を上げていると思います。

これから1年の目標

この1年で方向性が定まったので、これからの1年は大きな組織改変は行わず、今の形の良さを昇華していきたいと思います。
そのためには、コミュニケーションの時間を設けることが肝要であるので、定期的にミーティングを行い、縦と横の串が確り通って漏れがないかを繰り返しチェックしていきます。

有給消化率

58.85%

振り返り

本年は昨年の60.96%から58.85%と一昨年ほどの低下幅ではないものの、さらに取得率が落ち込むこととなりました。
スタッフが有給を取れる様に職場環境を整えることはさして難しいものでもないはずです。にもかかわらず低下していることは非常に由々しき事態であると重く受け止めています。

これから1年の目標

昨年、人事採用部門の専従スタッフを設けたことにより、有給取得率の低下にある程度の歯止めが効いたと考えています。
しかし、最終目標は100%取得ですので、さらに体制を強化する必要があります。専従者を増やし、人事採用部門自体を組織化する必要があると考えます。

平均残業時間

医師
0.8時間

前年比

看護師
30.71時間

前年比

事務
27.37時間

前年比

※統計が不完全であるためあくまで参考値となります

振り返り

昨年設定した目標に従い、事前に作成したシミュレーションの下、余裕を持って先行して人員を配置してきました。それにも拘らず、残業時間は増えました。
新型コロナウイルス感染症や新規開業に伴う業務支援による影響などが一因として考えられます。
そういった不可避な影響があったとしても、残業時間の増え幅を前回レポート時よりも抑えることができたので、一定の効果はあったものとは思われます。
しかし、働き方改革といった時勢を考慮すると、現在の我々の取り組みだけでは不十分であり、残業時間低減を何としても実現させなければなりません。

これから1年の目標

法人本部機能を充実させることが喫緊の課題です。機能を強化することで、現場が診療に集中することができます。
また、在宅ワークも積極的に取り入れます。この1年間は、産休後のスタッフや新型コロナウイルス濃厚接触者に対して適用し実践させてきました。今後はそれ以外の場合であっても適用して行きたいと考えます。自宅での勤務ですと、比較的残業が少ない(もしくは全くない)傾向がありましたので、残業時間低減に有効な手段だと考えています。
その他、フレックスタイム勤務・シフト制も導入し、常に時間を気にする習慣を個々人が身につけ、業務にオンオフのメリハリがつきやすい職場を目指します。
加えて、土日祝日の訪問診療を行うことが平日の負担を分散させることに繋がるように工夫を致します。
さらに、別の項目でも触れております有給休暇の取得を確実に行って頂く組織体制をいち早く確立することも有効であると考えています。

疾患別分布

  
  

振り返り

精神科、整形外科、小児科分野の訪問診療をスタートしました。整形外科や脳神経内科分野においては大学病院医局と提携を行い、先進医療に携わるドクターらと共に働くことで、訪問可能な診療分野が広がるだけでなく、当法人既存スタッフの知見を広げる効果もあり、クリニックとしての専門性も追求できました。

これから1年の目標

新たな診療科目については、まだ着手して1年と経過していないので、診療数として大きなウェイトを占めるには至っていませんが、今後この比率が少しずつ変わっていくものと期待しています。
地域に貢献するためには、まず我々自身をリスキリング(学び直し)の上、常に磨き続けることが大切であることを心に留めておきます。
具体的な取り組みとして、法人内外での勉強会の開催やオンライン手段を含む学会への参加が挙げられます。現在、月に一度の当法人主催の勉強会を開催しております。また、日本在宅医療連合学会・日本褥瘡学会・日本認知症学会に所属しております。こういった参加活動を弛まず地道に行っていくことが大切であると考えます。
それに加えて2ヶ月に1回は院内勉強会を開催することを目標とします。

要介護分布

  
  
  

振り返り

要介護3以上の割合が昨年報告時より大幅に増えました(前年比+1.56%〜+2.55%)。
また、平均介護度は2.91と上昇しております。重症者を診る傾向がより強くなったことが示されています。
ただし、難病や終末期の患者様もおられるので、一概に困難事例が介護度が高い患者様にそのまま当てはまるとは限りません。つまり、そういった患者様は医療必要度が高くとも介護認定の度合いが低く見積もられたり、場合によっては介護認定を受けていない方もおられます。現在、当法人はそういった患者様が全体の12%を占めています。
これからは、そういったデータにも目を向けるべきだと考えています。

これから1年の目標

我々は通院困難な患者様であれば疾患や介護度に関係なく、どなたでも訪問する方針でおりますので、上記の結果は私どもが意図したというよりも、社会的に自然な傾向であると考えられます。
この現実を踏まえれば、今後私たちは今まで以上に困難事例に立ち向かわなければならなくなります。
そのために必要なことは、疾患別分布の項目でも触れさせて頂きました通り、スタッフ一人一人のスキルアップ・新たな知見に対しての迅速かつ正確なアップデートに尽きると考えております。

登録患者様数

年間患者様累計
2,602

前年比

8月現在1ヶ月の患者様数
1,794

前年比

新規患者様数

新規患者様数
1,096

前年比

振り返り

昨年比で新規患者様数が+34.3%と前年よりも更に多くの患者様をご紹介頂きました。
また、それに伴い登録患者様数も前年比+29.3%でした。
新たに開始した診療部門で言いますと、整形外科部門の患者様が52名、精神科部門の患者様が延20名(精神通院医療の医療証発行手続きを当院で行っている患者様)でした。
その他、ケアプラン111名、訪問看護47件、訪問リハビリ343件の対応をさせて頂きました。
また、当法人のフォローアップを外れた患者様(お看取りを除く、転居やその他事由により終診となった患者様)は22.35%でした。

これから1年の目標

一度お受けした患者様を最期まで診させて頂くことを第一に致します(フォローアップ終了率を20%に抑える)
そのために我々の知識や経験・人的資源・物的資源をさらに充実させる。それに尽きると思います。
仮に途中で入院される事態が生じても、一日でも早い退院を働きかけることも同等に大切なことです。転居となっても当法人の診療圏の広さを活かし、継続して診られる体制を整えたいと思います。
そのためには、転居されたとしても「つつみクリニックで診てもらいたい」と仰って頂けるだけの信頼を得るために日々精進いたします。

紹介元分布

  
  
  

振り返り

医療機関様、居宅介護支援事業所様、訪問看護ステーション様を始め、様々なところから沢山のご紹介を頂きました。注目すべきは、精神科病棟からのご紹介が+2%と増えている点です。徐々にではありますが、当院が精神科疾患の訪問診療を開始したことが認知されてきていると実感できました。

これから1年の目標

訪問診療は、多種多様な事業所様と関わり合いを持ちます。どこを取っても地域包括ケアシステムの重要な歯車の一つであり、逆を言えば、どこが欠けても成り立たなくなります。我々は、地域に関わる全ての方々の元に出向き、課題を抽出し続けることが求められます。それをサポートするために独自の営業管理システムを作成中です(今年10月頃完成予定)。このシステムを活用することで、限られた時間の中で効率的に、取りこぼしがなく、これまで以上に他事業所様との深い関係性を構築することができるものと期待しています。

入院回数と入院率

入院総数
825
32.74
※福岡院と福岡西院の統計が不完全であるためあくまで参考値となります

振り返り

前回報告では27.49%であり、今回が32.74%と+5.25%も増えています。これには、新型コロナウイルス感染症が大きく影響しています。

これから1年の目標

感染症は、どんな性質を持つ微生物であったとしても、拡大防止という観点から、高齢者施設において、特にゾーニング、これが人手不足も相まって病院と比べて非常に困難です。
いかなる介入や改善を施したとしても限界がありますので、難しいところですが、それで諦めるのではなく、入院の日数を減じることも肝要です。
そして、それは努力次第で可能だと考えます。感染症の場合は難しいでしょうが、それ以外の疾患による入院であれば、治療方針が決定し、その治療が一定程度奏功していると判断できたならば、治療の途中であっても退院できるはずです。
過去の症例を振り返っても在宅でも病棟と同じ治療を継続できる場合が多い印象があります。色々な職種が介入することでなるべく質を落とさずに治療を遂行する、いや、しなければならないと思います。
今後はそういった点にも注目し、医療ソーシャルワーカーが積極的に介入することで、入院日数を減らす取り組みを続けていきます。

訪問状況

訪問回数
41,236

前年比

振り返り

訪問総回数は前年と比較して+43%と約1.5倍に増えています。昨年伸び率の+79%には届きませんでしたが、在宅医療に対するニーズは伸び続けており、幸いなことに、これまでと変わらず当院へご依頼頂けていることに感謝申し上げます。
また、この1年間で本格的に取り組み始めたケアプラン111名、訪問看護47件、訪問リハビリ343件と多くのご利用者様ならびに患者様に関わらせて頂くことができました。
勿論、患者様のご紹介やご依頼をいただく中で、様々なご要望やご意見(中にはクレーム)も頂きます。一度ご心配をお掛けしたことは医療という厳しい分野である以上、取り返しがつくものではありませんが、そういったお声を一つ一つ丁寧に誠実に受け止め、迅速に改善する、いわゆる冒頭申し上げた「組織としてのレジリエンス」を引き続き大切にしながら、地域医療の充実に邁進して参りました。
往診の総数に占める割合は前回レポート時と比較し、平日日中の往診、夜間往診、深夜往診、休日往診全ての分野で増加しています。これは、当院が定期訪問させて頂いている患者様以外の往診案件、つまり初診での往診対応案件が増えたことを意味します。
また、そのうち他医療機関(在宅療養支援診療所を中心とした)の在宅患者様の代診分も含まれます。地域で奮闘する訪問に従事されておられるドクターが学会やその他のご用事で24時間の診療体制が確保できない際に、我々が代わりに待機するシステムです。お一人で訪問診療の分野に注力しておられる、もしくはこれから挑戦される医療機関様にとって、あらゆる分野で持続可能であることが重要視される昨今、非常に有益なサポートであると考えます。
この取り組みもまた、地域医療の充実に繋がるのではないでしょうか。

これから1年の目標

これまで以上に、初診での往診対応患者様に力を入れます。診療圏内に住まれる患者様であれば、居宅、高齢者入居施設関係なく通院困難な方へ訪問に伺います。つつみクリニックは「移動する一次救急」を実現する医療機関として成長し続けます。この取り組みにより、救急車を呼ぶことなく自宅で診断と治療が完結できるインフラを整えることができます。
そして訪問診療は勿論のこと、それを支えるケアプラン作成、訪問看護・訪問リハビリ提供体制をさらに強化し、お一人の患者様に一つなぎの医療・介護を一つの法人で提供できるよう努めてまいります。その中で痛感したのが、歯科部門の必要性です。そちらの立ち上げにもこの一年で着手できればと考えています。
また、働き方改革の一環で完全シフト制による土日祝日の定期訪問診療を徐々に始めたいと思います。スタッフの勤務形態をより流動化する一方で、平日はデイサービスのご利用をなさることの多い患者様にとっては非常に利便性の高い取り組みであり、様々なご期待に応えることができる様になります。