統計情報2021年
はじめに
振り返り
2020年から2021年にかけて、全世界で未曾有の事態に見舞われましたことは言うまでもありません。エビデンスがなく、規則がなく、答えがない中、暗中模索を続けながら新型コロナウイルスに立ち向かわなければなりませんでした。在宅医療に従事する我々にとって、このウイルスに罹患し入院できずご自宅で亡くなられる方が多数居られましたことに自らの力の無さを痛感し、忸怩たる思いを今も引きずっております。
当法人においては2019年から2020年にかけて、前回のレポートでお示ししました通り従前の在宅医療の方法に加え、様々な職種を迎え入れることで在宅医療の質の向上、ひいては地域包括ケアシステムの充実に少しでも貢献できるように努めて参りました。
その中で、地域包括ケアシステムと一言で申し上げても画一的な定義付けなどなく、それぞれのコミュニティに応じた方法があると気付かされました。
そこで我々は、この1年間で訪問診療に特化した診療所を東京都台東区・山口県周防大島・福岡市西区・福岡県朝倉市の4カ所に開設させて頂きました。
地域包括ケアシステムを①首都圏・②地方都市・③地方都市辺縁地域・④へき地に分け、それぞれに最適なモデルを試行錯誤しながら構築することに専念することと致しました。
それぞれの長所や短所を見出し、良いと思われる部分をお互いに吸収し合い、理想的な地域包括ケアシステムの実現に日々取り組んでおります。
職員・人事情報
- 総スタッフ数
- 103名
- 医師
- 41名
【常 勤】8名
【非常勤】33名
- 看護師
- 23名
【常 勤】19名
【非常勤】4名
- ソーシャルワーカー
- 7名
- 臨床検査技師
- 2名
- 言語聴覚士
- 2名
- ケアマネージャー
- 4名
- 放射線技師
- 4名
【非常勤】
- 管理栄養士
- 1名
【非常勤】
- 事務
- 17名
【常 勤】15名
【非常勤】2名
- ドライバー
- 2名
【常 勤】1名
【非常勤】1名
振り返り
全職員数が1年前と比較し1.5倍になり、過去最高の伸び率をマークしました。何より当院が開設して以来、ずっと頭痛の種であった離職率の高さが緩和されたことが大きく寄与していると考えられます。少ない人数であくせくしていた頃と比較して、スタッフ一人一人の肉体的かつ精神的負担が軽減された結果と捉えています。
これから1年の目標
職員数や事業所数が増えたからといって生産性を落とすことが無い様に細心の注意を払いながら、筋肉質の組織を作り上げていくことに専念します。
具体的には、これまでスタッフ一人一人それぞれがプレイングマネジャーとして、臨床分野に携わる時間(プレイヤーとしての役割)が50%、組織運営に関わって頂く時間(マネジャー※1としての役割)が50%携わって頂くことを課しておりました。しかし、それではスタッフの長所を伸ばし、短所を補うことは困難です。それが高じて離職に繋がっていました。この方法が適切ではないと分かってはいましたが、職員数が少ない中ではそうするしかなく板挟みの苦境にありました。それでも患者様を1人でも多く診させて頂くことで経験を重ね、それを糧にスタッフを1人でも多く増やすことで、この苦境から少しずつ脱していくことができました。
そこで今後は、法人の組織体系として、①理事会(社員総会)・②運営推進本部・③臨床現場(各クリニック)に分かれ、理事会には理事長、運営推進本部には事務部長、各クリニックにはマネジャー※2(+サブマネジャー)といった形で、それぞれに部門を統括する責任者を配置致しました。そしてこれまで全スタッフにプレイヤー50%マネジャー50%の役割を負って頂いていたものを、運営推進本部に属するスタッフはプレイヤー20%マネジャー80%に、臨床現場に属するスタッフはプレイヤー80%マネジャー20%と按分を調整することで、あらゆる人材を適材適所に配置することができるようになりました。臨床に専念することも可能ですし、マネジメント能力を磨くことに専念することも可能となりました。
また、プレイヤーとマネジャーを完全に分けなかったのは、完全な分業を防ぎバランスの良い組織を作るためです。
さらにこの3部門がお互い密に連携し、連絡調整・協議を重ねていくことで切磋琢磨し、(造語ですが)三権擁立することで法人全体の体制を安定化させます。
次の1年はこの体制を盤石にするための1年間となるでしょう。
※1は広義のマネジャー(つまりマネジメントを行う者全て)※2は狭義のマネジャー(当法人の役職としての名称)を指します。
有給消化率
- 60.96%
振り返り
昨年有休消化率90%超を目標と掲げておりましたが、それに到達するどころか昨年よりも悪い結果となりました。職員数が増えたことで有給取得の喚起が疎かになったことや新型コロナウイルス感染症蔓延による影響が原因となったと考えられます。
これから1年の目標
パンデミックがいくら天災であったとしても、そこに責任を押し付けることは法人の姿勢として好ましくありません。こういった逆境があるからこそ、取り組めることも沢山あるのでは無いかと考えなければならないと思います。
そこで、運営推進本部に人事労務管理に従事するスタッフを配置しました。このスタッフが毎月有休消化率を集計し、必要に応じてスタッフに声掛けをすることできめ細かくフォローアップすることができます。それと同時に特定のスタッフに業務負担が偏っていないかなどの調査や、時には直接聞き取りを行うことで職員のメンタルケアの向上に努めます。
そして、2ヵ年計画で当初の目標であった有休消化率90%を超えることを実現します。
平均残業時間
- 医師
- 1.13時間
- 看護師
- 22.61時間
- 事務
- 23.76時間
振り返り
今回のレポートでこの点が最も反省すべき箇所であると考えます。昨年目標に掲げた数値を達成するどころか、逆に残業時間が倍増してしまう事態に陥ってしまいました。
昨年は①適正な人員配置を先立って行う、②クロスログなどのICT技術を駆使し業務負担を軽減する、③マニュアルを作成し最も残業時間の多くなる入職後半年から1年半後に掛かる負担を軽減する、ことで残業時間の削減を期待していました。
そこで個別に振り返ります。①については一つのクリニックの一職種の例外を除き、十分に達成できていました。理論的には残業時間は減る筈なのにそれが達成されなかったのは、一人一人の個別の力を集約させ整理し、生産性を高めることができなかったためと考えられます。②については導入した技術により業務が簡素化することは今でも疑う余地はありません。やはりそれを扱うヒトの方に得手不得手があることを前提としていなかったことが、誤りの一番の原因であったと考えられます。③についてはマニュアルを作成するためにマニュアル委員会を設置し1人の責任者の下、月一回で見直しを重ねていきました。振り返りのために、マニュアルの各スタッフへの周知の程度や委員会そのものがきちんと機能しているかの振り返り、作成したマニュアルが新人教育に役立っているか(新人スタッフにとって真に使い易く役立つものであるかどうか)の調査を行いました。その結果恥ずかしながら、全てにおいて上手く機能していないことが露わになりました。
これから1年の目標
適正な人員配置は継続して行いますが、同時に生産性の向上に努めます。生産性を判断するのは定性的な判断ではなく、独自の数学的な集計方法を用いて定量的に判定していきます。それを元に、人員や業務内容を適材適所に割り振ることをきめ細かく行います。例えば事務部門で言いますと、レセプト請求事務業務を鳥栖本院に集約しセンター化することと致しました。この作業を始め様々な新たな取り組みを行うにあたり、職員・人事情報の項目で触れました「組織体系の整理」が大きく貢献してくれると考えています。
そして当法人はエンジニアを1人採用しました。導入したツールを使うヒトが使い易くするためのサポートを行う他、導入することでさらにスタッフの負担軽減に寄与するであろう新しいツールを見出す業務を担当してもらい、上記②の部分をさらに深掘りして改善に努めて参ります。
マニュアルについては委員会任せにするのではなく、十分に機能するレベルに到達するまでは委員会メンバーに加え、運営推進本部のメンバーも参加し、組織全体のリソースを集中的に投入します。
各論的な対応は上記の通りですが、全てに共通する重要なことは組織が無秩序に肥大化することは何としても回避しながら筋肉質の組織を作ることだと考えています。
その上で1年後には昨年と同等の残業時間数に減らすことを数値的目標とします。
疾患別分布
振り返り
前年のレポートと比較し、神経難病の割合が+2%程度と大きく変化しております。これは神経難病のケアに特化した高齢者施設が増えてきており、それに関わらせて頂いたことがこの変化をもたらしています。今後、訪問診療が携わらなければならない分野はより多岐に渡り、かつ高度な専門性も求められてくることでしょう。
これから1年の目標
訪問診療を主とする医療機関で求められていた役割は、ホームドクターとしての機能を果たすことですが、これは昔も今も、そしてこれからも変わらないことでしょう。しかし多様化するニーズに応えるためには、総合内科医を中心としたプライマリーケアの充実を推進するのみならず、多くの診療科を持ちより高度な専門性を兼ね備えた、総合病院的な機能も併せ持たなければなりません。2022年からは精神科医師の配置を増やし、場合によっては大学病院と提携し、神経内科専門医や整形外科専門医を配置することを進めます。従来の訪問診療では考えられなかった新たな分野を開拓したいと考えています。
登録患者様数
- 年間患者様累計
- 1,895名
- 8月現在1ヶ月の患者様数
- 1,387名
振り返り
昨年に引き続き患者様の増加数だけでなく、増加割合も年々上昇しています。
これから1年の目標
言うまでもなく、患者様の数を増やすことが目的ではありません。患者様やその他、地域包括ケアシステムの枠組みにあるそれぞれが何を求めているのかに注意を払い続け、そこで得た課題に対して最適解を見出し、実践することを延々と続けることにあります。高みを求めるのではなく、泥臭く地道に活動を続けることを心がけます。
新規患者様数
- 新規患者様数
- 816名
振り返り
昨年と比較し新規患者様数は1.5倍に増えました。訪問診療を必要とする患者様が年々増えている証左であると考えます。一方で、診療の質が落ちていないかどうかのチェックも忘れてはなりません。そのために今回は高齢者施設に絞り、当院の訪問診療に対してのアンケート調査を行いました。ここでは紙面の関係上結果を公表することは控えさせて頂きますが、賛否両論様々なご意見を頂戴致しました。貴重なご意見を頂戴しましたこと、この場をお借りしまして感謝申し上げます。そこで外部機関からの質問や要望に対するレスポンスが遅いことが最も多いクレーム、即ち我々にとっての最重要課題であることが明らかとなりました。さらに、事務所によって評価が大きく異なっていたことも大きな問題であると捉えました。
これから1年の目標
組織体系の整理を行ったことにも繋がりますが、ここでも業務の再編を計画しています。
事務部門の業務で大きなウェイトを占めていたレセプト請求事務業務を鳥栖本院で行うことで事務的な対応の質とスピードを改善する。従来、地域医療連携業務を一挙に担っていたMSW(医療ソーシャルワーカー)の業務を地域連携業務と医療連携業務に分け、MSWは後者の業務に専念できるようにします。
地域連携業務と切り離しましたが一般的に聞き慣れない言葉ですので、ここで独自に地域連携業務とはどんなことを行うのかを説明します。地域連携業務とは、地域の勉強会や研修会の実施・行政(介護長寿課や包括支援センター等々)への働きかけ・自治会や民生委員の方への連携調整・ケースワーカーの方々との意見交換・地域密着型の施設で行われる運営推進会議への参加などを通じて、医療を超えた枠組みで地域に寄り添うことを目的とします。
また、高齢者施設だけに行っていたアンケート調査の対象を居宅介護事業所に拡大して幅広いご意見を頂ける様にします。
入院率
- 入院数
- 521回
振り返り
前年とほぼ同水準を維持することができました。相対的には非常に低い入院率をマークしています。在宅で安全に可能な限りの治療を行えたことの表れだと捉えることができます。
これから1年の目標
この1年で精神科や整形外科の訪問診療を開始致しました。またALSやパーキンソン病などの神経難病患者様を診させて頂く機会が増えたことを受け、2022年からは大学病院医局とも連携し、神経内科専門医による訪問診療も開始致します。この様に幅広い診療科に対応することで、患者様が如何なる状況にあっても住み慣れた場所で治療を受け続けることがより一層可能となりました。
また今年度より、当法人理事長である堤が青洲会病院理事に着任致しました。主に地域医療連携に従事しますが、中でも2022年4月に開設される百年橋リハビリテーション病院の地域包括ケア病棟のアドバイザーを務めさせて頂くこととなりました。当法人が直接的でないにせよバックベッドの確保に関係させて頂くことで、入院率だけでなく早期退院に向けての取り組みにも本格的に力を入れることができる様になりました。そうすることで、患者様の生活の場が居宅であろうが、高齢者施設であろうが、病院であろうが、場所に関係なく全て当法人の目の届く範囲内で生活をして頂ける様になり、患者様が地域医療の枠組みから逸脱すること無く、オールインワンの医療介護を受けられることで真の安心を感じて頂ける様になるのではと考えております。この様に今後1年は循環型の医療の実現を追求し続け、その先の活動に繋がる様に努めて参ります。
訪問状況
- 訪問回数
- 28,827回
振り返り
総訪問件数は昨年の2倍程度まで増えています。
特に深夜往診(22時から翌朝6時)は昨年の3倍ご依頼を頂く様になりました。
しかし、これは普段診させて頂いております患者様の容体が夜間に悪化して往診しなければならなくなった件数が増えたかと言えば、決してそうではありません。
当法人はこの1年で登録患者様以外の往診も承る様に致しました。つまり当院を一度も受診なさったことがなくとも、通院困難な方であれば老若男女問わず往診対応を致しております。そして週に3日と限られた日数ではありますが、小児科のオンコール対応も受け付ける様になりました。そういった患者様のニーズに応えた結果、夜間の往診件数が増えたものと解釈しております。
これから1年の目標
初診の患者様でも往診が受けられる仕組みを地域にもっともっと発信し、知って頂けるように広報活動に力を注ぎます。コールドクター様などと連携することで、よりプロモーションに磨きをかけていきたいと考えております。
また、他医療機関様との連携も開始致しました。訪問診療を行っているものの、お一人の先生で24時間365日オンコール対応を余儀なくされておられる医療機関様が多くおられる中、何かしら当院の資源が役に立たないだろうかと考え、当院が他医療機関様のオンコールを代理で行う活動を開始致しました。こちらについても、より周知し地域の先生方に知って頂くことで、1人でも多くの先生が訪問診療に安心して携わることができる仕組みを構築していければと考えています。
しかし一方でスタッフの負担に配慮しなければなりません。そのための取り組みとして、①医師部門と看護師部門両方に夜間土日祝日オンコール専従スタッフをより多く配置し、②訪問看護ステーションを立ち上げ夜間の負担を分散することで、常勤者(日中の訪問診療を担うスタッフ)の時間外対応従事日数を0に近づけていくことを目標とします。